東京高等裁判所 昭和52年(ネ)351号 判決 1977年10月26日
控訴人 栗山秀子
<ほか三名>
右控訴人四名訴訟代理人弁護士 植田八郎
被控訴人 小沼水産株式会社
右代表者代表取締役 小沼亀吉
被控訴人 小沼亀吉
右被控訴人両名訴訟代理人弁護士 菅原隆
主文
一 本件各控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人らは連帯して、(イ)控訴人栗山秀子に対し金六八四万六、一六六円、(ロ)控訴人栗山剛志に対し金一、〇六九万二、三三四円、(ハ)控訴人栗山晋吾、同栗山里んに対しそれぞれ金三〇〇万円、および右(イ)(ロ)(ハ)の各金員に対するいずれも昭和四六年六月三〇日から各支払ずみまでの年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は次のとおり訂正、附加するほか原判決の事実欄に記載されているとおりであるから、これをここに引用する。
原判決三丁裏終りから五行目に「収入を得ていた。」とある次に「これからその生活費五割を差引いた上、」を挿入し、同丁裏終りから二行目に「逸失利益は」とある次に「少くとも」を挿入する。
同五丁裏始めから五行目に「一および三」とあるのを「一ないし三」と、同丁裏始めから七行目に「ない」とあるのを「および」と、訂正する。
同六丁表始めから七行目に「および」とあるのを「ないし」と訂正し、同行目に「成立は不知、」とある次に「ただし、同号証の一および二が本件事故現場附近の写真であることは認める、」を挿入する。
理由
当裁判所も控訴人らの本訴請求をいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は左記のとおり附加、訂正するほか原判決の理由と同一であるから、これをここに引用する。
原判決六丁裏始めから三行目に「に対し」とある次に「その頃現物出資として」を挿入する。
原判決六丁裏終りから五行目の「二、そこで、本件事故につき、」以降同九丁表終りから七行目の「警鳴義務を負わせることはできない。」までを次のとおり訂正する。
「二、そこで、本件事故につき訴外服部喜一に過失があったか否かについて検討する。
《証拠省略》を総合すると次のとおり認定することができる。
本件事故の発生した前記道路の事故地点附近には速度制限がないところ、訴外服部喜一は前記日時頃幅員六米の前方の見通しの良好な本件県道左側車線(同道路南西側車線)を前記加害車を運転し、出島村方面から神立町方面に向けて時速四〇ないし五〇キロメートルで進行し、本件衝突地点に差しかかったところ、自車の前方約一一二メートルのカーブ(自車からみて右カーブ)附近に反対方向から進行してくる前記被害車の前照灯の光を認めて対向車のあることに気づいた。そのとき同人は、同車に何の異常も認めずにそのまま進行し、自車と被害車である右対向車との距離が約八二メートルに近付いた際、対向車が時速六〇ないし七〇キロメートルの速度で右のカーブを大きくまわりきり、同道路のセンターラインを半分ほど越えこれを跨ぐ状態で進行してくること、その際同車が少しふらふらしていることに気付いたのであるが、この道路附近を何回も通り同道路の状況を知悉している同人は、対向車がセンターラインを越えたのは右のカーブのためであり、同車がふらついているのはその附近にある同道路の非舗装部分と舗装部分との段差(実際その附近には若干の高さの段差が存在した)のためであると考え、対向車は間もなくその本来の車線(同道路北東側車線)に戻るものと信じ、そのまま進行を続けた。更に両車間の距離が約五二メートルに近付いた際、右服部は対向車がセンターラインを完全に越えて自車の進行車線上を進んでくるのを認めたのであるが、同人としては、対向車も同道路南西側車線を進行中の自車を認めているはずであるから、両車の接近にしたがい、対向車において当然にその本来の車線たる同道路北東側車線に戻るものと同車の運転を信頼し、これと安全に行き違うことができると判断し、そのまま進行した。しかし、右服部は両車間の距離が約二五メートルになっても対向車が依然として自己の進行車線上を進行してくるのを認めて対向車の運転者の異常と危険を感じ、突差に自己の進行方向左側路肩一杯に、左端にたっている視線誘導標(いわゆるポール)を擦るほどに(実際に、服部車の車体に擦過されたため右ポールは破損した。)、自車を道路左側に寄せるとともに、急制動の措置をとったが、対向車がそのままの速度と方向で突込んできたため、自車の車線内の地点において、対向車である被害車の前部右側と自車の前部右側とが衝突した。これらの間、右服部は警音器を鳴らさなかった。
かように、認めることができ、これを覆えすに足りる証拠はない。
右事実によると、服部喜一に制限速度違反、前方注視義務違反、センターラインオーバーの過失があったと認めることはできない。
進んで同人に減速徐行義務違反、警音器吹鳴義務違反の過失があったかどうかについて判断する。
前掲各証拠によると、本件事故地点附近が法令により徐行すべき場所又は警音器を吹鳴すべき場所とされていないことは明らかであり、また、危険防止のため止むをえない場合を除いて警音器の吹鳴が許されないことは法令上明らかであるところ、前記認定事実からすると、右服部において対向車を約八二メートル又は約五二メートル前方に認識した際、対向車が間もなくその本来の車線に戻るものと信頼し、これと安全に行き違うことができると判断したことについても無理はなく、対向車が自車の前方約二五メートルの地点に接近しないうちに、右服部において対向車の前方不注視等による非常識な運転を予測し、これに対処する措置をとるべきであったということは困難であり、他に同人にこれを期待するのを相当と認める資料はない。また、右認定事実の下においては、対向車が右地点に近付き服部が対向車の異常と危険を感じた時点においては警音器を吹鳴する時間的余裕が服部になかったこと、仮に服部が右時点以後において警音器を吹鳴したとしても、両車の速度、時間的、距離的関係からみて、本件衝突事故が避けられなかったことがいずれも明らかである。
右のとおり、本件においては服部喜一に対し徐行減速義務、警音器吹鳴義務を負わせることは困難であって、同人にこれらの点についての過失も認めることはできず、結局、本件事故の発生はひとえに対向車の運転者栗山力武の前方注視義務違反、左側通行義務違反等の過失によって生じたものというべきである。」
以上の次第で、控訴人らの本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、本件各控訴は理由がない。
よって、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条、第九三条第一項本文に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 外山四郎 判事 海老塚和衛 鬼頭季郎)